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絶縁材料の劣化による事故を未然に防ぐ「部分放電」の定量評価

印刷用ページを表示する 更新日:2024年7月15日更新

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高圧ケーブルや変圧器など、私たちの暮らしを支える電気設備。その中に用いられている絶縁材料は、製造時の欠陥や経年劣化によって「部分放電」が発生することがあり、最悪の場合火災や停電などの事故につながるといいます。そこで、部分放電の仕組みやその対策について、電気技術グループの三井 雅史 研究員に話を聞きました。​

(外部リンク)

電気設備にダメージを与える「部分放電」とは?

電気設備や電子部品には、意図しない箇所に電気を通さないために、絶縁材料が用いられています。樹脂やエナメル、絶縁油など、固体・液体・気体の絶縁材を組み合わせ、通電部分を絶縁するのです。​

絶縁紙を巻いたコイル
​絶縁材料が用いられている例。
たとえばコイルには、銅線に絶縁の被膜が施されたエナメル線の間に、さらに絶縁材である紙が挟まれています。

 

しかし、製造時に絶縁材料に不純物が含まれたり、わずかな隙間が空いたりといった欠陥が生じたとき、もしくは経年劣化によって絶縁性能が低下したときに、高電圧が印加されると欠陥や絶縁性の低い部分で微弱な放電が生じることがあります。これを「部分放電」といいます。​

「部分放電が発生しているか否かは外側から見分けがつきづらく、わずかな部分放電は機器の機能に大きな影響を与えません。そのため、部分放電が見過ごされてしまうケースも少なくないのです」(三井)

部分放電を放置してしまうと、放電箇所から絶縁材料の劣化が徐々に進んでしまいます。劣化した絶縁材料は、やがて絶縁破壊を起こし、機器の故障を引き起こすだけでなく、漏電や火災、大規模な停電などの事故につながる危険性もあるのです。また、変圧器やモーターなどではレアショートと呼ばれる劣化現象が起きて、異常な発熱が生じたというご相談事例もあります。

「高圧トランスやケーブルをはじめ、電気設備は長期間安全に使用できることが望まれます。都産技研の『部分放電測定システム』では、電気機器や電子部品で発生する部分放電を定量的に測定、評価することが可能です」(三井)

部分放電測定システム
部分放電測定システム(AC15kVまで。周波数可変(50~1000 Hz)

 

使用環境と同じ温度・湿度で、部分放電の有無を確認する

部分放電測定システムによる依頼試験では、試験品に所定の試験電圧をかけ、部分放電の有無を確認します。一定時間、電圧をかけて部分放電の発生量を確かめるT-Q試験(印加時間-放電電荷量特性)などの各種測定メニューを用意しております。

T-Q測定
図1.高電圧用コンデンサのT-Q測定グラフ(デモ測定)

 10kVではノイズレベル(10pC程度)以下ですが、図1では、15kVまで電圧を上げると部分放電が発生していることが見て取れます。
 ※実際の試験では、対応するJIS規格等があれば規格に基づき測定条件を指定していただく必要があります。

本設備では、自動測定した結果をグラフとして出力可能です。たとえば下記のグラフは、試験電圧を一定の範囲内で昇圧・降圧し、各電圧における放電電荷量を測定するV-Q試験(印加電圧-放電電荷量特性)を行った様子です。実線が昇圧中、点線が降圧中の放電電荷量を示しています。これにより、昇圧中に任意の閾値(今回は10pC)​を超えた際の電圧値(放電開始電圧)と、降圧中に閾値​を下回った電圧値(放電消滅電圧)を求めることができます。実際の依頼試験では、ばらつきを確かめるために同様の測定を3回実施します。

V-Q測定
図2.温湿度変化させた際のV-Q測定グラフ(絶縁シート)

​図2では、今回測定した試料では温度より湿度の影響を受けやすいことが見て取れます。

​「V-Q試験では、電圧を上げていったときに、どこで部分放電が発生するのか。また、部分放電が発生した状態から電圧を下げていったときに、どこで部分放電が消えるのかを確かめます。なかには、発生した部分放電がなかなか消えないケースもあり、昇圧・降圧での特性を調べることはとても重要です」(三井)

2024年4月からは、部分放電測定システムに恒温恒湿槽が導入されました。装置内の温湿度をコントロールすることで、試験品が使用される環境に合わせた試験が可能です。

「恒温恒湿槽では、温湿度は最大で温度85℃・湿度98%、温度だけであればマイナス20℃から180℃まで設定できます。任意の温湿度条件に対応した依頼試験サービスを提供しているのは、国内では都産技研ぐらいだと思います。」(三井)

 

電気設備や機器を安全に使い続けるために

部分放電測定システムでは、試験品のサイズや電圧に合わせて、外壁を金属で覆うことで電磁ノイズを通さない「シールドルーム」(図3)と、金属製の筐体である「シールドボックス」のどちらかを選択し、試験を行います。​

シールドルーム内の部分放電測定システム
図3.シールドルーム内の部分放電測定システム(AC30kVまで。周波数50または60 Hz)

「AC15kVまでの小さい試験品はシールドボックスで測定しますが、シールドボックスに入らない試験品、たとえば工場などの建屋の屋内外に設置される変圧器、樹脂がいし、コンデンサなどについても、こちらの環境で部分放電を評価できます。部分放電発生箇所の特定に役立つ超音波カメラなどの機器も用意しています」(三井)

表 シールドルーム、シールドボックスの主な使い分け
部分放電測定システム測定品例
シールドルーム大きめの変圧器、モーター、樹脂がいし、コンデンサ(15kV~30kV)、コネクタ付きケーブルなど
シールドボックス小さめの変圧器、絶縁紙、基板、コンデンサ(15kV以下)など

 

絶縁液中試験用治具
絶縁液中試験用治具。絶縁体表面や電極端部で発生する部分放電を抑制するための治具。
主に絶縁フィルム等の部分放電を計測するために利用。

 

超音波カメラ
超音波カメラによって部分放電の発生箇所を検出した様子

超音波カメラ(左)によって部分放電の発生箇所を検出した様子(右)。
試験条件や製品によっては部分放電の発生箇所を特定できるため、試験品改良に有効


部分放電の依頼試験は、新たに開発した電気機器や絶縁材料に異常がないか調べるだけでなく、既に使用中の電気設備に劣化が生じていないか確かめる、といった用途にも使われています。いずれも、電気設備や機器を安全に使い続けるには欠かせないものです。

「最近では電気自動車の需要の高まりから、自動車関連会社からの問い合わせのほか、半導体関連会社からのご相談も増えています。部分放電は、電気を使うものであれば避けられないもの。都産技研にはさまざまな試験品を測定したノウハウがありますので、ぜひご相談いただければと思います」(三井)

(外部リンク)

 

研究開発本部 物理応用技術部
電気技術グループ

研究員
三井 雅史(みつい まさし)

お問い合わせ先

技術相談依頼試験・機器利用について

技術相談受付フォームはこちらから(外部リンク)

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